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しぜんもん


UPDATE 2015/12/18

コラム

RED DATE BOOK(絶滅危惧図鑑)  妖怪版

日本には各地にさまざまな妖怪が伝えられてきました。

日本の妖怪を想像するとき、先日亡くなられた漫画家の水木しげるさんの描く妖怪の姿を思い浮かべる人は多いでしょう。

その土地によって異なる日本の自然環境。日本の自然と個性豊かな妖怪は深いつながりがあります。

日本自然保護協会が2002年に発行した冊子「shippo」では、「RED DATE BOOK 妖怪版」と題し、5回に渡って水木しげるさんの妖怪イラストともに、日本の自然や人の暮らしの変化によって“絶滅してしまいそうな妖怪”を紹介しました。

 

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RED DATE BOOK 妖怪版 其の一
海坊主(うみぼうず)

岩手県下閉伊郡、宮城県気仙沼、福島県いわき、神奈川県藤沢、静岡県伊東・榛原・湖西、三重県伊勢、島根県隠岐、山口県大島、鹿児島県鹿児島郡、中国(漢)。じつに分布域の広い妖怪である。姿、大きさ、性質はさまざまなだが大まかに二分される。ただし、海で出逢うという以外決定的な共通点はない。まあ、「カキ」みたいなもんだ。海の牡蠣と里の柿、名は同じだけれどまったく別のもの。
「人魚」は、実はジュゴンなんだ・・・今では常識のように言われている。ジュゴンが減ったから人魚も見られなくなったと。ただし、それでは虚しすぎる。ある漁師さん、仮にヨシダさんとしよう。ヨシダさんがある日、時化の中で美しい人魚に出会った。それなのに村の人はみんな、「あぁ、それはジュゴンだよ」。ヨシダさんの立場はない。「ジュゴンも結構かわいいよ」なんて言ってもヨシダさんは慰められない。

妖怪の正体を、悪戯に解き明かそうとすることが、妖怪たちを絶滅に追いやっていることを無視してはならない。海坊主の「正体」がニホンアシカだろうが、カレントリップだろうが、海坊主は海坊主なのだ。そうでしょう。そうじゃないとヨシダさんがただの欲求不満な人みたいになっていまうじゃない。
ーーちなみに海坊主にシッポはない。

(「shippo」2002年1・2月号 より)

 

RED DATE BOOK 妖怪版 其の二
百足神(むかでがみ)

「今昔物語」に、田原藤太(たわらのとうた)に退治された「三上山を七巻き半する大きさ」の大きな百足が登場する。日本最大種のトビズムカデでも体長は15㎝程度。山をグルグル巻いちゃう大きさなんだからこれはもう化け物だ。
ムカデは古くから恐れられ、致死毒を持つマムシと比較して「ヘビはムカデに弱い」なんて言われたりしていたが、実際いはムカデはマムシの好物の一つだ。「ムカデは唾を吐きかけると退散する」なんてことも言われていたのもムカデへの恐怖心故の対策案なのだえろう。「ゲゲゲの鬼太郎」は、「大百足」と戦うのに唾「正確には鬼太郎の場合、胃液)を吐きかけたりしている。

身近に生息するムカデへの恐怖は、時に巨大な化け物や妖怪として現れていたようだが、一方、神仏との化身とし使いとして百足をみていた場所も少なくなかった。ムカデがほかの蟲を食べてくれる益虫だからであろう。

韓国には、京畿道戸川郡の長湖院の僧が喰われたり、李王朝下の平安南道成川の郡守が喰われたりという大百足の話が残っている。
ムカデが減り、アホな人間が増えている気がする。百足神がアホな人間を喰ってくれちゃえばいいのにと思うことしきりである。

(「shippo」2002年3・4月号 より)

 

RED DATE BOOK 妖怪版 其の三
子泣き爺(こなきじじい)

主な伝承採取地は四国とされている。旅をしていると、山の中から赤子の泣き声が聞こえてきて……という話は多い。
オギャナギ、子泣き婆、ウバリヨン等、この手の妖怪は全国に分布していたと思われる。
森が減り、街道が拡がり、暗がりが減ると人々とのコミュニケーションにも隙間がなくなる。
「山ん中で赤ん坊が泣いていた!」ほんとかい?「本当だ!!」見たんかい?「…あぁ、ちゃんと見た(汗)…」したらなんで置き去りにした?「…(汗、汗)…いや…おぶったんだけど、どんどん重くなってしまって(汗、汗)……つれて来られなくなってしまって……」なるほど、だったら妖怪だな、
というゆとりがあった。今日、迅速で安全な交通網の整備がすすみ、暗い森の一本道を夜通し旅するという機会は少ない。夜の旅は高速道路を突っ走るとか、それ以前に夜中になる前に目的地に着いてしまう。さらには、謎めく広大な森が少ない。
そうなると、山の中で赤ん坊の泣き声がするはずがない……ということになってしまう。
じつは、僕自身も夜の田んぼで赤ん坊の泣き声を聞いた。怖くなって調査道具もそのままに家に帰り、妻に話すと「育児ノイローゼ」の一言で片づいた。泣きたい。

 (「shippo」2002年5・6月号 より)

RED DATE BOOK 妖怪版 其の四
かまいたち(鎌鼬、窮奇、構太刀)

20周年前に東京都青梅で会社員が、突如、脚に切り傷を負い、かまいたちの仕業とされた。かまいたちに襲われると、下半身に鋭利な切り傷を負うが痛みを伴わないとされている。(後に激痛や大出血で死に至るとの伝承もある)
新潟県西頸城郡や長野県北安曇など雪国地方に特に多いが、全国に分布しており、各地で正体も様々である。飛騨地方では、三人の神によるものとされているし、『北越奇談』では鬼神の刀にあたったものとして「構太刀」の字をあてている。

愛知県東部では、旋風に乗って現れるとされており、これは「飯鋼」の仕業との伝承もある。偶然にも、ほ乳類のイタチ科のイタチ、イイズナ)を冠しているが、イイズナは北海道と本州北部にしか分布しておらず、愛知県の妖名前(と怪・鋼との因果はなさそうだ。
「旋風中に真空状態が発生し、そこに触れる起きる現象だ」などとよく言われるが、実験で証明されてるわけではない。科学を盲信する者による、これこそ俗説に過ぎない。
ところで、本物のカマを手にしたことも、イタチを観たこともない人って増えているんだろうな。

  (「shippo」2002年7・8月号 より)

RED DATE BOOK 妖怪版 其の五
泥田坊(どろたぼう)

烏山石燕の「今昔百鬼拾遺」に描かれている一つ目で泥田から上半身を出している妖怪。石燕の百鬼拾遺は、語呂合わせの絵遊びで「泥田坊」は江戸の遊郭・新吉原を描いたものという解釈もあるが、今回は一般的な「泥田坊」を紹介しよう。

北国で、寒暑風雨を問わず耕作い勤しんできた農民の息子が、農民の死後、酒に溺れ、田地を他人に売り払ってしまう。農民は妖怪化して、息子と田を買った者を恨んで出没し、「田かへせ田かへせ」罵るというものである。
現代は、放蕩的経済社会の成れの果て。酒に溺れなくとも、高い相続税やらで手放さざるを得ないものは田地だけでなく、お后の生家に及んでいる。田地に至っては○×新田といった地名の場所でも水田の面影もない。恨めしい。にもかかわらず泥田坊が絶滅の危機に瀕している理由は至極簡単。恨めしくても生息環境である泥田がなくなっているのである。手放されるどこではなく、アスファルトで固められたらさぞかし恨めしいだろうな。妖怪ならずとも、蛙や蜻蛉たちも恨めしく思っているに違いない。
日本の地価が高いのは、「田かへせ田かへせ」という恨み言が地中深くから現代人の心に、「高いぜ高いぜ」と聞こえて届いているからかもしれない。

  (「shippo」2002年9・10月号 より)

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