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しぜんもん

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UPDATE 2014/06/27

コラム

ミツバチが失踪!? その原因は…

ここ数年、ミツバチが大量にいなくなった、という話題を耳にしたことはありませんか?
作物の実がなるには受粉が必要です。その受粉の役割を担っているのがミツバチです。ミツバチがいなくなってしまえば、農作物の収穫が難しくなるのです。
農業にとって、つまり私たちの食生活に欠かせない存在であるミツバチ。なぜミツバチがいなくなってしまうのでしょう? その原因を探る研究が進んでいます。

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ネオニコチノイド系農薬でミツバチが大量死

2006年に全米のミツバチの4分の1がこつぜんと消えた現象は、蜂群崩壊症候群(CCD)と名付けられた。その後被害が拡大し、北半球のミツバチの4分の1が消失したことから、さまざまな原因説が唱えられた。

農薬説については、実験室レベルから野外実験レベルまでの幅広い研究論文が報告され、ネオニコチノイド系農薬(以下、ネオニコ)が、ミツバチの大量死に深く関与していることが裏付けられた。EUでは2013年から2年間、3種のネオニコの一時製造中止を決定している。

一方、日本においては、欧米のように継続的で詳細な調査がこれまでなされておらず、公式には「日本にはミツバチの大量死・大量失踪の被害はない」という立場をとってきた。しかし、EUのネオニコの一時製造中止の決定を受けて、日本でもようやく調査体制がスタートした。

私たちはネオニコの蜂群への影響を調べるために、長期野外実験を2010年に開始した。日本で広く用いられているジノテフランとクロチアニジンを選定し、実験濃度として、カメムシ駆除濃度の10分の1の農薬濃度を「高濃度」、50分の1を「中濃度」、100分の1を「低濃度」と定義した。

「高濃度」は、最初の1回(5日間)だけに農薬を含有した糖液と花粉を投与し、それ以降は無農薬とした。「中濃度」「低濃度」については、蜂群が消滅するまで農薬を投与し続けた。実験中の巣箱内外の状況を写真で詳しく記録するとともに、蜂数、蜂児数、死蜂数、農薬摂取量などを測定した。

その結果、すべての実験群はCCDの様相を経て(図1)、最終的には絶滅した。「高濃度」では主に急性毒性により最初の農薬投与で大量の蜂が即死し、その後、無農薬にしても蜂群が絶滅し、「中、低濃度」では主に慢性毒性により絶滅したと推定した。また、「中濃度」と「低濃度」の農薬摂取量に差がないことから、これらの農薬はあまり代謝されずに、ミツバチの体内の組織と結びついて残るのではないかと推定した。

図1 ネオニコ系農薬投与時のミツバチの巣箱

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高濃度の群のみ、最初の1回だけ投与。中・低濃度は最後まで投与した。
縦軸は、各実験群の(実験日の蜂数/最初の蜂数)の値を、
無農薬(実験日の蜂数/最初の蜂数)の平均値で割った値。

 

植物全体に行き渡る高い浸透性、DDTの5000倍以上の強い殺虫性能、生体内に長く留まる残効性、土壌や水中における難分解性という特徴を持ち、わずかな量の散布で十分な殺虫効果が長期間持続するネオニコのプラス面が強調されてきたが、低濃度でも長期暴露時の人間を含めた環境への悪影響が懸念される。

 

(山田敏郎/金沢大学大学院自然科学研究科教授)

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