UPDATE 2014/04/21
コラム
いきものばなし
動物の排泄物でチョウのオスの受精率アップ!?
チョウが小動物の死体やフンやオシッコに集まっているシーンを見たことはありますか?
ヒラヒラと飛び回り華麗なチョウのそんな姿をみるとギョッと思ってしまうかもしれませんが、チョウたちはそこで吸水→排泄を繰り返しているのです。この行動、これまで活発に動くために必要なナトリウム(塩分)を補うために動物の排泄物から吸水していると考えられていました。しかし、その利用効果が明瞭でない場合もあり、専門家の間でも謎が残されていた行動でした。
その謎を広島大学の研究グループがついに突き止めたのです。それは、何とチョウが繁殖のためにマッチョになり、さらに受精能力をあげるためだったというのです。
チョウが湿地や水辺もしくは小動物の死体や糞尿に集まり、吸水→排泄を繰り返す行動は特に若い雄チョウに頻繁に観察され、「吸水行動」と呼ばれます。
この解明のため、よく吸水し、飼育がしやすいシロオビアゲハを用いて研究を行いました。
まず、各種イオンの吸収率を調べた結果、アンモニウムイオン(NH4+)、硝酸イオン(NO3-)を比較的よく吸収していた個体がいたことから、窒素の同位体(15N)で標識した塩化アンモニウム(NH4Cl)溶液または硝酸ナトリウム(NaNO3)溶液を羽化翌日から5日間与え、羽化後7日目に精液タンパク質、有核精子、胸部筋肉組織へのアンモニア性窒素と硝酸性窒素の取り込みの有無を調べました。その結果、アンモニア性窒素だけがどの組織でも有意に取り込まれることが分かりました。さらにアンモニアを摂取したオスは、通常よりも30%ほど多くの有核精子*を持っていました。
これらの結果から、吸水行動によって得たアンモニアからアミノ酸(タンパク質)を製造して、それを交尾行動時の俊敏な飛翔に必要な筋肉組織の補修や、精子や精液タンパク質の生産に利用したり、またより多くの有核精子をつくって受精能力を高めたりと、吸水行動はオスの繁殖能力向上に大きな役割を果たしていることが明らかとなりました。
またメスもアンモニアを利用して卵タンパク質を生産する能力を備えていました。
高瀬浩行/本田計一(広島大学大学院生物圏科学研究科の研究グループ)
*有核精子:チョウは有核精子と無核精子を生産し、有核精子のみが受精に直接関与する。