UPDATE 2015/10/15
特集
ガイドブックでは紹介されない
「とっておきの自然」に出会うコツ<後編>
“絶景”の魅力を倍増させて楽しむ旅をしませんか?
最近、「日本の絶景」が話題にもなっていますね。日本の自然環境が生み出す風景はそれぞれに個性的で本当に素晴らしく、一度と言わず何度でも訪れてみたい場所ばかりです。
<前編>、<中編>と2回に渡り、日本自然保護協会のスタッフや関係者がお薦めの「とっておきの自然」スポットとその魅力が倍増する「自然のみかた」をお伝えしてきました。
<後編>では、お薦め人それぞれのテーマでの「旅のおすすめスポット」をご紹介します。
※長野県の上高地と沖縄の慶良間諸島を紹介した<前編>記事は>>>こちら
※新潟県の東頸城と熊本県阿蘇─熊本市を紹介した<後編>記事は>>>こちら
自然の変動を感じる──お薦め人:亀山 章
土砂の生産現場(南アルプス塩見岳周辺)
上の写真は南アルプス塩見岳付近の山地の浸食の様子。
南アルプスの隆起速度は、年平均3~4mmともいわれ国内最大級。山が隆起する一方で、浸食が進み、急峻な山地がつくられている。ここは土砂を生産する場所であり、下流に大量の土砂を供給している。
山岳の地形は大きな自然のダイナミクスを感じさせ、動植物などの生きものを寄せ付けない厳しい自然を目の当たりにすることができる。生きものに恵まれたわが国では容易には見られない荒涼とした景観である。
砂浜の動きと植生(ひたち海浜公園海岸砂丘)
茨城県にある国営ひたち海浜公園に行くと、海岸砂丘を見ることができる。
砂丘は風によって海に運ばれた砂が堆積した丘状の地形で、河川によって運ばれた砂が海に堆積し、それが風で運ばれてできたのが海岸砂丘である。
かつては全国各地の海岸で見ることができたが、河川にダムがつくられて砂が運ばれなくなったために、全国的に消滅しつつある。砂の移動が止まると、コウボウムギやクロマツなどの海浜植物が生育することで、砂丘の消滅はますます進む。
人の影響により自然本来のダイナミクスが失われていくことがよく分かる興味深い場所。
生きものとの出会いを楽しむ──お薦め人:大橋 禄郎
推定40歳のコブダイに出会う(佐渡島北小浦)
新潟県佐渡島の北東(大佐渡)の尖端、「北小浦」沖にある「赤岩」には、成魚になってから数えても23年は生きているというコブダイがいる。
体長約1.4m、推定40歳余りとの説もあり、「弁慶」という愛称で呼ばれている。水深15mあたりに潜ると、すぐに寄ってくる。
漁業者が自主的に禁漁区にしているため、日本ではまれな海中のエコツアーエリアとなっている。
カジカの仲間、キジハタ、メバル、カジカなど、日本海らしい魚類や景観が楽しめる。
透明な緑色に抱かれる日本らしい海底景観(伊豆半島中木)
静岡県の伊豆半島先端近く、西側にあるスポット。
一帯が富士箱根伊豆国立公園内で、かつ船でしか行くことのできない独特の地理的環境から、海洋生物の豊富な自然が残され、透明度と生物の多様性が魅力的。「ヒリドの浜」と呼ばれるビーチから「大根島」までのエリアには、長らくスノーケリングのフィールドとしてお世話になっている。
夏は海水浴客で混み合うが、生物の豊富さは変わらない。
晩春から夏にかけては、ホンダワラ、カジメなどが繁茂し、その中をイワシ、アイゴ、ボラ、クサフグなどが行き交う。ここで撮った写真がしばしばフォトコンテストに入選した。
人の営みの色を感じる──お薦め人:土居 秀夫
江戸時代からの秘境の山里(信越秋山郷)
秋山郷は、新潟県津南町と長野県栄村にまたがる、中津川に沿った峡谷の山里。
ここも鈴木牧之が『北越雪譜』や『秋山紀行』で紹介しており、当時にあっても、特異な風俗の秘境とされていた。
苗場山と鳥甲山に挟まれた奥深い豪雪地の風景は迫力があり、日本の山人が営んできた暮らしの厳しさとそれを克服してきた知恵を知る、よい手がかりになる。
穏やかな里やまの連なり(阿武隈高地)
福島県を中心に宮城県から茨城県まで広がる阿武隈高地は、地表面が長い間浸食作用を受けて平らになった準平原という地形。
低山と丘陵のはざまに町や集落が散在し、いわばどこまでも続く里やま。著名な観光地は少なく、穏やかな気候の四季それぞれに静かな自然美を探すことができる。
原発事故により、一部に立ち入り禁止地区が生じているが、復興の一助としても、阿武隈の知られざる山や川、そして小さな温泉宿を訪ねてみてはいかがだろうか。
見えない水の流れを想像する──お薦め人:保屋野 初子
歴史的な水資源を活用した最先端施設 (山梨県都留市)
マイクロ水力発電で有名な都留市の「元気くん」1~3号は、藩政時代の用水路である家中川を今に活かした最先端施設。
あまりに水路の水が威勢良いので発電用に引かれた水路かと思いきや、かつてこの台地を開墾し城下町にするため、桂川上流部に谷村大堰を築き引いてきたもの。以前は寺社を巡る用水が、町に網の目状に張り巡らされていた。
先人たちのような水に対する眼力を養うには、歴史を知って見えるにようにする訓練も大事。
堰に沿う散策は、都留市のミュージアム都留ボランティアガイド「谷の里・史の里案内人」にお願いするとよい。
湧水のまちで水源の森を想う(秋田県旧六郷町:現美郷町)
約60カ所の清水が湧き出る旧六郷町の旧市街では、湧き水を中心にした昔の街づくりが残り、冷蔵庫代わりの各戸の泉、野菜洗い場、寺社などを巡ると、清水と暮らす風情を堪能できる。
「湧水あるところ田と山あり」の原則に従って奥羽山地方面へ向かうと、六郷扇状地に広がる水田地帯と山麓の関田円筒分水工が見えてくる。
水利権に応じて山からの水を田の用水に分けるためのこの施設は、昔は藩が、今は地元住民を中心に組織される「土地改良区」が、水源林として管理する七滝山がつくる見えない水を見える水に転換する装置でもある。