日本自然保護協会(NACS-J)が提供する、暮らしをワンランクアップさせる生物多様性の世界

しぜんもん


UPDATE 2014/04/18

連載

No Nature No Future

旅行と自然・・・ “郷に入れば郷に従え”

新緑の5月、そしてこれからやってくる夏休み・・・旅に出たくなる季節ですが、旅行のピークシーズンになると、世界遺産や“日本一の○○”といった名所では観光客が急増し、現地で問題が起きているといったニュースを耳にしたこともありませんか。旅行に行くときにぜひ頭の片隅に入れておいていただきたいことのおはなしです。

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昨年、富士山が世界文化遺産に登録されました。以降、富士山の登山者がとても増えたということです。現在、日本には13カ所の世界文化遺産と、4カ所の世界自然遺産があります。知床、平泉、白川郷、京都、熊野古道、屋久島、沖縄など、世界の視点から見てもどこも魅力的で、一度と言わず訪れてみたいと感じる場所です。
その一方で、世界遺産登録地ではゴミが増加してその処理費用が大きな負担になってきているとか、生活道路として重要な道路での渋滞、遭難など、悲しいニュースも聞こえてきます。なぜこうしたことが起きてしまうのでしょうか。この問題を旅行者として訪れる側の立場で考えてみたいと思います。

今、日本自然保護協会では世界自然遺産に登録された小笠原の自然が、僕たちの子や孫の世代までずっと残されるよう活動をしています。僕は調査や交渉のために2カ月に1度くらいのペースで小笠原に通っているのですが、その道中で少し驚くような光景を目にすることがあります。
つい先日は、小笠原の父島から帰る船に乗ろうとした時のことです。地元の方が、観光で来られた方に「お部屋に忘れ物がありましたよ」と波止場まで届けにきたのですが、「あ、それ捨てたのよ」というお応えでした。

別の日では、夏の暑い時でしたが同じ宿に泊まっていた方が、宿の方に対して、「湯船にお湯をためないってどういうこと?」と問い詰めていました。同じ方ですが、「朝食の時にご飯を自分でよそえって、事前に聞いていない」と苦情を言っていました。また、これは新聞に掲載されましたのでご存知の方もいるかもしれませんが、父島でタクシーを呼んで、「南島まで行って」と言った観光客の方がいたようです。島の名前が違うので、当然船でしか行けないのですが、こうしたことも起きていたようです。実際、小笠原の観光協会への苦情は増えているようです。

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皆さんは、こうした話をどう感じられるでしょうか。もしかしたら、苦情の主張の方が妥当、受け入れ側に問題があるとお感じになられるかもしれません。または、そんなことが苦情になるの、とお感じになられた方もおられるかもしれません。いろいろな感じ方があると思います。
こうした感じ方の違いはどうして起こるのでしょうか。僕はおそらく、訪れる側としてみた場合と、受け入れる側としてみる場合とで大きな違いが生じるからだと思うのです。さらには、訪れる側の意識の違いも大きいかもしれません。

小笠原での体験を紹介させていただきましたが、その一つ一つの背景にある問題を少し紹介します。

小笠原では、ごみの最終処分は島外に船で運び出して、別の島で処理しています。それだけコストがかかるわけですからできるだけごみは出さないようにと考えられています。小笠原村では、自分で出したゴミは、持ち帰るというのが基本のルールなのです。また、小笠原の夏は、降雨量が少なく、いわゆる乾季のような状態になります。

普段生活に利用している水もかなりの頻度で水不足になるので、島民の方の節水の意識は非常に高いのです。このような地域の事情を考えたら、先ほどのような”苦情”は言えないのではと僕は思います。

日本自然保護協会では1994年に、旅行者が、生態系や地域文化に悪影響を及ぼすことなく、自然地域を理解し、鑑賞し、楽しむことができるようにするためにはどうしらいいのかというガイドラインを作成しました。この中で旅行者の役割として、1)自然と地域文化への敬意、2)生態系の一員としてふるまう、3)地域の伝統、経済に悪影響を与えない、の3点を挙げています。少し難しく感じられるかもしれませんね。これを日常の言葉に置き換えると、「郷にいれば郷に従え」と言うことではないかと思います。

訪問先には、訪問先の文化や、風習があり、そこで普通に暮らしている方々がます。こうした方々に対して、こちら側の快適さを求めるのではなく、訪問先にある別の快適さを楽しむというのが、非常に大事ではないでしょうか。これは国内でも海外でも同じことでしょう。
「郷に入れば郷に従え」こそ、旅行の醍醐味。ぜひ、旅行に行く時は、訪問先の地域事情も頭に入れながら、そこでしか体験できない非日常を過ごしてください。
これまで見てきたいろいろな風景が、違ってみえるかもしれません。

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(文・写真:日本自然保護協会 保護・研究部 辻村千尋)

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