UPDATE 2014/11/18
おすすめ書籍
ぼくは高尾山の森林保護員
宮入芳雄
こぶし書房 2014年2月28日刊 1800円+税
高尾山は年間260万人が登る世界一の山であり、2007年に『ミシュランガイド』で三ツ星を獲得してから、著者が「狂想曲」というほどのブームとなった山である。その高尾山を書いた本は数多くあるが、今般、好著が一冊、加えられた。
書評は図書を論評するものであるが、論じ方にルールがあるわけではない。それは論者にまかされたものである。
この本から二つの発見を得た。そのひとつは、本書が優れたガイドブックだということである。ガイドブックは読み物としての紀行文とは異なり、現地に行くことを想定して情報を提供する本である。
著者は高尾山の森林保護員として週2日、高尾山を歩いており、そこで観察された動植物や風物を四季に分けて書き記している。
この本は文章と写真が一ページずつ見開きになっており、文章を説明するように写真がある。ともいえるが、写真を説明するように文章が書かれている。例えば、「アサギマダラ」のページを開くと、美しく咲いたサラシナショウマの花に、優雅な飛び方で知られるアサギマダラが美しい姿でとまっている。背景には高尾山の山並みと、したたる緑が写し込まれている。写真と文章のコラボレーションが実によい。
この本をもってこの景色を訪ねることが楽しみになる、まさにガイドブックである。
もうひとつはカメラマンと写真家の違いである。
この本の写真はウマい。それもそのはず、著者はカメラマンを自称する写真家である。私はカメラマンとは、カメラを用いて現象を写真にする技術者だと思っている。同業の協会から写真家と名乗れと言われているので、写真家の肩書をつけているという。写真家は、写真を用いて自らの美意識を表現する芸術家である、とするならば、著者はカメラマンといったほうがよい。本書の写真は、現象を忠実に写し取っているところに特徴があり、それがガイドブックの性格をよりいっそう際立たせている。そして、カメラマンであるだけではなく、著者は文章で風景を描く文筆家でもある。
この本の二つの発見は、カメラマンと文筆家のコラボレーションの素晴らしさと言うに尽きる。一読をおすすめする。
推薦者:亀山章(日本自然保護協会 理事長) ★プロフィールは>>>こちら ★
<日刊ゲンダイ(2014年3月20日)掲載記事>