UPDATE 2014/12/17
特集
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雪と氷の性質を知る
2種類ある「雪」と「氷」
『広辞苑』(第4版)をひもとくと、「雪」は「水蒸気が空中で昇華し結晶となって降る白いもの」と書かれています。しかし、地上に落ちて積もった雪(=積雪)もまた通常は雪と呼ばれますから、雪には 「降雪」と「積雪」の2種類があることになります。さらに「氷」の項を見ると、「水が氷点下の温度で固体状態(→凍結)になったもの」とあります。しかし、積雪は圧縮(→圧密)すると氷になります。従って、氷には「凍結氷」と「圧密氷」の2種類があります。
水の分子が規則正しく並んでできる雪の結晶
▲写真A
雪と氷の化学式は、いずれもH2Oでできていて、物質としては全く同じ「水」です。雪は、降雪であれ積雪であれ、雲の中で水蒸気状態の水(H2O)がくっついた氷の結晶が出発点となります。マイナス気温の雲の中で大変小さな氷の結晶となって現れ、次第にきれいな雪結晶に成長するのです。
では、雪の結晶はなぜ美しい六角形をしているのでしょうか? その秘密は、氷の結晶を構成している水分子の配列にあります。1つの水分子に注目すると、酸素原子(O)と、2つの水素原子(H)で形成されています。隣には4つの水分子があり、水素原子を介してつながります。これを直線で結ぶと正四面体になります(写真B)。こうして、たくさんの水分子が規則的に連結したもの(写真C)を真上から見ると、六角形の亀甲模様が現れます(写真D)。
水分子(H2O)が空中でバラバラの状態が水蒸気(気体)で、規則的につながった状態が氷(固体)、ある程度の数が不規則につながったものが水(液体)と考えるといいでしょう。
▲写真B:水分子の結合で現れる正四面体
▲写真C:正四面体がつながって六角形がつくられる。上の写真は雪結晶の原子模型の一部をクローズアップしたもの。水分子は、1つの酸素原子(大きな玉)と2つの水素原子(小さい玉)で構成される。水素原子を介して、互いに約104°の角度をなす4方向にある4個の水分子と連結とする。
▲写真D:雪結晶の原子模型(4方向から撮影)。雪博士と呼ばれた中谷宇吉郎先生の「中谷宇吉郎 雪の科学館」(石川県加賀市)から依頼を受けて、筆者が製作。
粉雪→湿雪→ボタン雪→みぞれ→最後は雨に
雪の結晶は、雲の中で成長し、重くなると雪片となり落下し始めます。通常、地上に近い大気ほど温度は高いので、雪片の温度は落下しながら上昇します。0℃以上の気温となった大気中を落下すれば、雪片は大気との接触部から解け始め、湿った雪に変わります。水を含んだ雪片は水の表面張力で互いにくっつきやすいので、落下途中で集合するとボタン雪になります。ボタン雪がさらに落下し続けるとみぞれに変わり、やがて雪片全部が解けてしまえば、もちろん雨になってしまいます。南極のような厳寒の地では、地上付近で大変小さな氷の結晶が生成されてダイヤモンド・ダストが降ります。
日本の場合は、冬の間、マイナス気温が続く北海道や本州の山岳地帯で水を含まない粉雪が降ります。0℃に近いプラス気温が多い北陸地方で降る雪は、水を含んだ重い湿雪やボタン雪。さらに気温の高い太平洋岸では、みぞれやそれが解けた冷たい雨が降ることが多いのです。しかし、雪片の形や降り方は気温のほか、湿度や風の影響も受けるので、各地域でさまざまな種類の雪が降ります。
この冬、雪が降ったら、虫眼鏡を持って外に出て、舞い降りた新鮮な雪片を袖に受けて覗いてみてください。その際、息がかかるとすぐに解けてしまうので、吐く息がかからないように注意しましょう。東京ですら、さまざまなきれいな雪の結晶を観察することができます。
また、寒冷地や雪国では、下の写真のような雪や氷がつくる面白い造形が見られます。
積雪と残雪を観察してみよう
▲写真E:木の枝や電線などからひものように垂れ下がった雪。横長の細い物の上に積もった雪が適度に水を含んでいると、水の表面張力によって雪粒同士が強く結合し、自分の重みで垂れ下がってもすぐには落ちない。夜間湿った雪がしんしんと降り積もった後の朝に見られるが、雪ひもは、陽が射し始めると、雪が解けて水の量が増え、結合力が弱まってすぐに落下する(撮影地:東京都)。
▲写真F:樹木にできた霜。空気中の水蒸気が風に飛ばされ、樹木の表面にぶつかった瞬間に凍ってできる。気温が大きく下がる夜間に発達し、陽が射すと、すぐに消える(撮影地:群馬県)。
▲写真G:棒状のものの上に帽子を被ったように積もった雪。湿った雪は水膜の表面張力の働きで雪同士がくっつきやすく、また上から次々と積もる雪の重みで“おもち”のようにたわみ、冠のような形に成長する(撮影地:群馬県)。
雪国では、雪が消えた後に道路脇で緩んだガード・ロープやひしゃげたガードレールをよく見ますが、これは積雪の沈降力によるものです。
地上に舞い降りた雪片は、次から次へと上に積もる雪の重みで圧縮され、隣り合う雪片同士の結合が強くなります。積雪の中に埋まった雪片にかかる力は、その上に載った雪の重みだけでなく、結合した周囲の雪の沈降によって下方に引っ張られる力も加わります。この力が「沈降力」と呼ばれるもので、ときには校庭の鉄棒やガードレールを曲げるほど大きな力になります。積雪内に埋まった樹木の横枝などは簡単にへし折ってしまうのです。
また、斜面に積もった雪は、大なり小なり斜面に沿ってずり落ちるので、低木は倒され、中高木は根が曲がります(写真H)。急斜面上の積雪は雪崩を起こすので、雪崩の常習斜面では樹木が生育する間がない裸の土地・地形ができます。
▲写真H:斜面上積雪の流動によって幹が曲がった樹木(「根曲がり」、新潟県)。
春になって雪解けが進むと、ほぼ毎年同じ所に雪渓が残ります。遅くまで残雪する場所は雪の吹きだまり地か、雪崩の停止・堆積地点のいずれかです。残雪の分布を観察することで、冬の間の主な風向やおおまかな雪の動きを知ることができます。山岳地帯の雪の状態は、現場での直接観察が困難な厳冬期よりも、むしろ春の雪解け時期の方が把握しやすいといえます。
皆さんの地域の雪がどんな姿をしているか、一度じっくり観察してみてください。
原稿執筆・写真A,B,C,D,H:松田益義(株式会社MTS雪氷研究所)
※写真E,F,G:撮影・横山隆一(日本自然保護協会)
会報『自然保護』No.495号 特集「日本の冬を観察する」より
このほか、日本の冬が生み出す自然環境の解説、寒さが厳しく他の生きものが少ない冬をあえて利用する生きものたちの面白い生態、各地の会報読者から寄せられた冬だからみられる自然現象や景色を紹介した、日本自然保護協会の会報『自然保護』No.495号 特集「日本の冬を観察する」 のPDFを500円のご寄付でダウンロードしお読みいただけます。
特に、PDF内で紹介している「フユシャクガ」という蛾は、冬に羽化したり、雌には翅がなかったり(もしくは縮小している)、とびっくりするような生態の持ち主です!ぜひお読みください。
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