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UPDATE 2015/06/15

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人類の進化―拡散と絶滅の歴史を探る

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バーナード・ウッド著 馬場 悠男訳

丸善出版 2014年2月25日刊 1,000円+税

「初期猿人」、「猿人」、「原人」、「旧人」、「新人」という人類の進化段階の用語を正しく理解することは容易ではなかろう。にもかかわらず、私たち人類はどこから来たのか、という疑問は古代ギリシャの時代からずっと持ち続けてきた。それは自らのルーツを知りたいという欲求と同時に、現存するオランウータンやゴリラやチンパンジーなどの類人猿との違いを明確に知っておきたいからでもあろう。なぜならば、昨今、遺伝子の解明が進んで、人類と類人猿とは遺伝的にきわめて近いものであることが明らかにされてきたからである。

著者は人類化石研究の第一人者であるが、本書は化石の形態研究の成果だけではなく、化石のDNAの研究や、長い時代にわたる地球の気候変動や地形形成など幅広く周辺学問の成果を取り入れて、人類がいかに暮らしてきたかを明らかにしたものである。

チンパンジーと現生人類(ヒト)の共通祖先から800万年~500万年前に現生のチンパンジーと分かれて登場することになる現生のヒトは、それからの長い長い時間のなかで、進化を遂げて「新人」である現代人になる。
「初期猿人」の化石は、すべてを合わせても、スーパーマーケットのカートに収まるほどしか得られていないというのに、それをいくつものヒトの種に分類した研究者や、さらにはその後の「猿人」から「新人」までを数十に及ぶ種に分類してきた研究者の熱意には頭が下がる。

それにしても、なぜ化石は少なく、地域的に偏在しているのか。それは死体が他の動物に食べられてしまう可能性や、分解が進みやすい地域の環境の特性によるものであろうとする。本書の前半では、その謎解きの方法が述べられ、後半では謎解きの成果が語られている。
複雑な人類の進化を理解するのは容易ではないが、何よりうれしいのは、系統樹の隣にいるチンパンジーは、ヒトと最も近い動物であるが、隣にいるということは分かれて存在している、ということであり、つまりは明らかに別物なのだということである。これを知っただけでも、本書は読む価値があった。

 

推薦者:亀山章(日本自然保護協会 理事長)  ★プロフィールは>>>こちら ★

<日刊ゲンダイ(2014年4月3日)掲載記事>


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