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しぜんもん


UPDATE 2015/04/28

特集

辺野古・大浦湾の海底で新発見! エビとサンゴとウミウシの三角関係

さまざまなかかわり合いの中で生きている自然界の生物たち。米軍基地移転問題で揺れる辺野古大浦湾の海底で、小さなエビとソフトコーラルの共生関係が、新たに発見されました。

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▲写真2 ソフトコーラルの一種デンドロネフィリア・ハイアリナを捕食する国内初記録のホクヨウウミウシの仲間Tritonia sp.。水槽での観察。水槽の光では黄色く写るが、海底では鮮やかなローズ色に見える。

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▲写真2 デンドロネフィリア・ハイアリナにすむトゲトサカテッポウエビ。(黒い2つの丸が目。透き通った体だが、よくみるとハサミや触角がわかる。※写真をクリックすると大きくなります)

 

身を守るための毒を餌のサンゴから取り込むウミウシ

沖縄本島の北部、東海岸に位置する大浦湾。沿岸部約12㎞、湾口約4㎞と決して広くはない湾ですが、マングローブと干潟が発達した湾奥部から潮間帯、藻場、砂地、ガレ場、泥場、そしてアオサンゴなどのさまざまなサンゴ群集など、湾内には多様な環境があり、その生物多様性は皮肉なことに、辺野古埋め立て問題とともに広く一般に知られるところとなりました。大浦湾の生物はアオサンゴとジュゴンが有名ですが、ほかにも多種多様な生物が生息し、私の研究対象であるウミウシは、ダイビングチーム・すなっくスナフキンのメンバーによって100種以上が確認されています。未記載種や日本初記録種も少なくありません。

ウミウシは巻貝の仲間ですが、貝殻を持たず、軟体部をむき出しのままで暮らしています。いわゆる巻貝は堅い貝殻で敵から自分の身(軟体部)を守っていますが、ウミウシは貝殻を持たない代わりに自分の体をまずくする方法で身を守っています。その「体をまずくする毒(化学物質)」を、ウミウシは餌から取り込んでいます。

ウミウシの餌は、主に刺胞動物(サンゴ、イソギンチャクなど)や、カイメン類やホヤ類といった海底に固着する生物です。固着生物は動いて敵から逃れることができないため、敵に食べられないよう体内にさまざまな防御物質(毒)を蓄えています。ウミウシはこれらの物質を含んだ餌を食べ、その毒を再利用することで敵から身を守っていると考えられています。体がまずく、餌資源を巡って競争する相手も少ないため、ウミウシはさまざまな海底環境に自らのニッチ(生息環境)を獲得していったのでしょう。日本近海のみで1200種以上という驚くべき多様性も、海底に豊富にある餌資源に適応して進化したためではないかと考えられています。しかし私と藤井琢磨博士(現・鹿児島大学島嶼研究所特任助教)との共同研究で、餌の固着生物も、黙ってウミウシに食べられているわけではないことが明らかになりました。

▲写真3 多様な生態系が混在する大浦湾は、生物多様性に富んだ豊かな海である。魚類1040種、造礁サンゴ類425種、軟体動物1974種、節足動物753種、そのほかの動物701種が確認されている。1:大浦川の河口に広がるヒルギ、メヒルギ、ヤエヤマヒルギなどのマングローブ林。2:マングローブ林の沖に広がる干潟。潮が引くと干潟にはミナミコメツギガニの群れが現れる。3:大浦湾の水深5~20mにある広大な砂地。砂の平原は一見して生物相が貧弱に見えるが、実は多くの動物が生息している。4:大浦湾の北側にあるアオサンゴの群集。長さ50m、幅約30mあり、世界有数の規模であることが判明している(写真:ダイビングチーム・すなっくスナフキン)。

▲写真3 多様な生態系が混在する大浦湾は、生物多様性に富んだ豊かな海である。魚類1040種、造礁サンゴ類425種、軟体動物1974種、節足動物753種、そのほかの動物701種が確認されている。:大浦川の河口に広がるヒルギ、メヒルギ、ヤエヤマヒルギなどのマングローブ林。2:マングローブ林の沖に広がる干潟。潮が引くと干潟にはミナミコメツギガニの群れが現れる。3:大浦湾の水深5~20mにある広大な砂地。砂の平原は一見して生物相が貧弱に見えるが、実は多くの動物が生息している。4:大浦湾の北側にあるアオサンゴの群集。長さ50m、幅約30mあり、世界有数の規模であることが判明している(写真:ダイビングチーム・すなっくスナフキン)。

住み込みの用心棒がサンゴからウミウシを追い払う

研究の舞台となったのは大浦湾の水深15~30mの砂泥地です。なだらかに傾斜しつつ深みに落ちていく広大な砂泥地のところどころに、鮮やかなローズ色をしたソフトコーラル(硬い骨格を持たないサンゴ)の1種、デンドロネフィリア・ハイアリナの群集が生息しています。それを餌にするウミウシ2種と、その餌にすむトゲトサカテッポウエビの、ソフトコーラルをめぐる種間関係を研究したものです。

まず2011年5月、この砂地でホクヨウウミウシの未記載種を発見しました。この種は日本初記録です。近くにはこのウミウシの餌であるデンドロネフィリア・ハイアリナの群集があったため、ウミウシとソフトコーラル1群体を大学の研究室に持ち帰りました(写真1)。しかしソフトコーラルと同じ水槽にウミウシを入れておいても、ウミウシは餌に食いつこうとしないどころか、近づこうとすらしません。もしやと思い調べてみると、そのソフトコーラルにはトゲトサカテッポウエビがついていました(写真2)。そこでソフトコーラルからエビを取り除いて水槽に戻してみると、ウミウシはすかさずソフトコーラルのポリプ※を食べ始めました。これを繰り返してみたところ、トゲトサカテッポウエビを除去した場合、ウミウシは実験開始1分経過後もソフトコーラルから離れずポリプを食べ続けました。反対にテッポウエビをソフトコーラルに戻した場合、ウミウシはソフトコーラルのポリプの摂食を実験開始1分以内にやめるか、あるいは実験中まったく摂食しないかのどちらかの行動をとりました。

▲写真4 国内初記録種のオトメウミウシの一種デルマトブランカス・カエルレオマクラタスが、ソフトコーラルの一種デンドロネフィリア・ハイアリナを捕食しているところ。大浦湾における野外観察。

▲写真4 国内初記録種のオトメウミウシの一種デルマトブランカス・カエルレオマクラタスが、ソフトコーラルの一種デンドロネフィリア・ハイアリナを捕食しているところ。大浦湾における野外観察。

▲写真5 オトメウミウシの一種デルマトブランカス・カエルエレオマクラタスが、ソフトコーラルの一種デンドロネフィリア・ハイアリナに近づくと、トゲトサカテッポウエビ(中央の白円内)が、ハサミ脚で衝撃波を生じさせ、ウミウシから宿主のソフトコーラルを防御する行動をとった。大浦湾における野外観察。 ▲図1 本研究によって明らかとなった、テッポウエビ、ウミウシ、ソフトコーラルの三角関係。トゲトサカテッポウエビがソフトコーラルを餌とするウミウシからソフトコーラルを守っていたことが確認され、2種の種間関係は双方に利益のある「共生」であることが示唆された。

▲写真5 オトメウミウシの一種デルマトブランカス・カエルエレオマクラタスが、ソフトコーラルの一種デンドロネフィリア・ハイアリナに近づくと、トゲトサカテッポウエビ(中央の白円内)が、ハサミ脚で衝撃波を生じさせ、ウミウシから宿主のソフトコーラルを防御する行動をとった。大浦湾における野外観察。

次に2011年冬、これも日本初記録のウミウシ、デルマトブランカス・カエルレオマクラタスを、春にホクヨウウミウシの未記載種を発見したのとほぼ同じ場所で発見しました。このウミウシも、デンドロネフィリア・ハイアリナを餌にしています(写真4)。水中で観察すること30分超、デルマトブランカス・カエルレオマクラタスは、このソフトコーラルのポリプを摂食し続けました。観察後採集して研究室で調べたところ、このソフトコーラルにトゲトサカテッポウエビはついていませんでした。2012年4月に2個体目を同じ場所で見つけたときも、まず水中で観察しました。するとポリプを摂食しようとソフトコーラルによじ登り始めたデルマトブランカス・カエルレオマクラタスに、ソフトコーラルについていたトゲトサカテッポウエビが素早い一撃を浴びせたのです(写真5)。ウミウシはテッポウエビの起こした衝撃波にのけぞり、その後はソフトコーラルに近寄らないか、近寄ってもソフトコーラルに登らず砂に潜るかのいずれかの行動をとり、そのダイビング中に観察した限りでは、ソフトコーラルを摂食する行動は二度ととりませんでした。

造礁サンゴにすむサンゴガニやテッポウエビは、サンゴの出す粘液を餌として頂戴する代わりに、サンゴを天敵のヒトデから守る行動をとることが知られています。これらは「共生」の関係にあると言えます。一方で、トゲトサカテッポウエビがソフトコーラルをすみかにすることは確認されていましたが、トゲトサカテッポウエビがソフトコーラルを外敵から守る行動はこれまで確認されておらず、一方の生物のみに利益のある「片利共生」ではないかと考えられてきました。しかし、今回の研究でトゲトサカテッポウエビがソフトコーラルを餌とするウミウシからソフトコーラルを守っていたことが確認され、2種の種間関係はホスト(宿主)と共生者の双方に利益のある「共生」であることが示唆されました。

 

▲図1 本研究によって明らかとなった、テッポウエビ、ウミウシ、ソフトコーラルの三角関係。トゲトサカテッポウエビがソフトコーラルを餌とするウミウシからソフトコーラルを守っていたことが確認され、2種の種間関係は双方に利益のある「共生」であることが示唆された。

▲図1 本研究によって明らかとなった、テッポウエビ、ウミウシ、ソフトコーラルの三角関係。トゲトサカテッポウエビがソフトコーラルを餌とするウミウシからソフトコーラルを守っていたことが確認され、2種の種間関係は双方に利益のある「共生」であることが示唆された。

失われゆく共生の場

ウミウシの研究をしている立場からは日本初記録種が2種も得られた喜びがありましたし、ウミウシを打ち負かす動物がいたことへの驚きも覚えました。いずれにせよ、このような生物同士の複雑で面白いかかわり合いが見られるのは大浦湾の生態系が守られ、豊かな生物相が保たれているからにほかなりません。そしてその生態系は私たちが想像する以上に繊細です。

トゲトサカテッポウエビとソフトコーラルの共生関係をより詳しく実証するには、今後も継続して観察と実験を行う必要があります。しかし、民意を無視して埋め立てのためのボーリング調査が開始された、まさにその場所が、ソフトコーラルとその用心棒エビのいた砂泥地なのです。もうあの美しいローズ色のソフトコーラル群生地には近づくこともできなくなってしまいました。あの動物たちがどうなったのか。私は暗澹たる思いでボーリング調査、浚渫の様子を見つめています。
2014年11月、19の学術団体が連名で米軍普天間代替基地建設の中止を含めた計画の見直しを求め国や県に要請書を提出しました。私もこのうち1団体に属する者として、辺野古埋め立てに反対の意を表したいと思います。

 

原稿執筆・写真: 中野理枝(琉球大学理学部 非常勤講師、公益財団法人黒潮生物研究所 客員研究員、NPO法人全日本ウミウシ連絡協議会 理事長)


 

会報『自然保護』No.545 より転載

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