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UPDATE 2015/04/21

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動物たちの心の科学
仲間に尽くすイヌ、喪に服すゾウ、フェアプレイ精神を貫くコヨーテ

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マーク・ベコフ著 高橋 洋訳
青土社 2014年3月17日刊 2,400円+税

著者は動物の情動を研究する認知動物行動学の研究者であり、本書にその研究成果が取りまとめられ、動物たちの心が解き明かされてきている。

道徳は人間に固有のものであり、人間以外の動物には考えられないものとされてきた。ならば、人間は道徳性をどのように獲得してきたのか。著者に言わせれば、それは進化の過程で獲得されてきた、ということになろう。その根源に動物の道徳性がある、と主張するのが本書である。
コヨーテのフェアプレイ精神について書かれた「野生の正義、共感、フェアプレイ」の章を読むと、オオカミやコヨーテなどの社会性肉食動物の遊びは、動物の道徳性を解明する上で重要なカギになることがわかる。

「動物が遊ぶのは、そうすることが楽しいからだ」とみる。遊びからは深い喜びを感じることができるし、遊びは伝播しやすく、遊んでいない動物にも喜びを感じさせる。そして、遊びのなかで強く噛みついて相手を傷つけることがないように気遣う道徳性を見出す。ダーウィンの進化の考え方を踏襲し発展させようとする著者は、「適者生存」は「競争」の結果として強い子孫が生き残るのではなく、相手を気遣う道徳性をともなう「協力」に依存すると説く。道徳性を持った子孫が生き残る、というのである。

人間の道徳性は、人類に特有のものではなく、むしろ動物が進化によって獲得してきた道徳性を受け継いでいるものである、とするパラダイムシフトが興味深い。このことを自覚すると、いじめのない動物の世界が崇高にみえる。「多くの動物は感情をあからさまに表現する。その様子をよく観察すると、その動物の心のなかで何が起きているかを知ることができる」というのが本書を貫く視点であり、「動物は感じる能力を持っている」「情動は人間にとってと同様、動物にとっても重要なものである」ということを確証するために書かれている。
知的に揺すられるすばらしい本である。私たちの心のルーツが動物たちの心と共通していることを知ることは、動物保護思想や自然保護思想の根源につながる。一読をすすめたい。

 

推薦者:亀山章(日本自然保護協会 理事長)  ★プロフィールは>>>こちら ★

<日刊ゲンダイ(2014年3月27日)掲載記事>


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