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UPDATE 2014/12/17

連載

子育てと自然

第3回 Q. 自然体験が子どもにいいとわかっていても、自分自身が自然の中で遊ぶという体験をあまりしてきたことがなく、子どもにどのように遊ばせたらいいかわかりません。

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大人の自然離れが子どもの感覚を失わせる

某有名私立大学の教員から聞いた話です。机に座って大学の授業を聞くのに耐えられない学生のために、気分転換のために校内で木の幹に触れたり、自然発見という動きを伴った活動をさせたところ、木の幹に目をつぶって触れていた学生が「気持ちが悪い」と言ったそうです。
さらに40年以上も前から子どもたちに使われていた有名な学習帳の表紙写真が2年前から「教師や親」から「気持ち悪い」と言われ、昆虫からお花の写真に変えられてきたという話題(参考   http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141127-00010002-withnews-soci)にも驚きです。お花などの植物は昆虫に助けられて次の世代に命をつないでいるのに、その生きものの循環の仕組みを正しく認識しないで、気持ち悪いと身近なところからしりぞけてしまうのはいかがでしょう。

人間は他のほ乳類と異なって、人間として完成するまでお母さんのお腹の中で育つことが出来ない生きものです。生まれてから人間として成長していくのです。ここでは、子どものからだが形態的に大きくなることを発育としてとらえ、精神的・機能的に成熟することを発達とし、両方をあわせて成長と用いています。

子どものからだの発達は頭から下部へ、例えば、頭―胴体―腕―手―指先へと発達が進む方向性があります。さらに皆さんのお子さんの成長、具体的にはお子さんの一人歩きが出来るまでを思い起こしていただければ理解できると思いますが、個体差はあれど順次性があり、大きな動きから細かい動きへと発達していくのです。例えば、首や背中の筋肉がついていないと寝返りは出来ません。そして寝返りすることで視野に入ってくる環境が今までと異なりますので、はいはいの加速を早めたり、立ち上がって手に入れようとしたりする動機が手足の筋肉の発育を促すことにつながっているのです。

脳などの神経もそれぞれ感受性期があり、視神経の発育のために乳幼児期には眼帯をさせないなど配慮されています。神経系の発達は8~9歳くらいまでに発育していくと言われています(スキャモンの発育曲線)。子どもの成長にこうした発育と共に、両親や周りの大人とのかかわりから社会性を獲得していきます。そこで、社会性を身につけるためにも「特定の相手との間で築く心理的な絆=アタッチメント」が大切であると言われています(以上のことは、高校の家庭科の教科書に記述されていますので思い起こして下さい)。
そうしたうえで、子どもは「遊び」を通してさまざまな能力を獲得していくのです。それは、運動能力、知的能力、感覚、好奇心・探究心、自立性、社会性などであり、「内なる自然」ともいうべき精神性・社会性を確立していくのです。子どもたちは「群れて遊」び「けんか」をすることにより、他者の存在や自分の感情の動き、さらに仲間とルールをつくって遊ぶなどの調整的な能力をも獲得していくことになるのです。

こうして視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚という五感は成長にともなって獲得していきます。視覚的に、触覚的に筆者はなまこを食することは出来ません。北海道生まれで小さい時から甘エビを食して育った者にとって、流通過程で鮮度が落ちたエビの臭いも気になったりします。皆さんはいかがでしょう。

今、大学生の授業時間は90分です。それにも耐えられない学生が増えていることにも驚きでしたが、大学生や母親、さらには教師までもが「気持ち悪い」ということに三重の驚きを感じます。先に紹介した大学生、母親、教師の木の肌や昆虫が「気持ち悪い」ということは、幼少期に自然の中で遊ぶ機会が少なかったり、木の肌や葉っぱに触れる体験が少なかったことを意味しているといえます。親、そして教師といった立場の大人までもが自然体験の少ない人が増えていけば、ますます子どもの自然離れが進み、生きる上で大切な五感が発達する機会が失われてしまう恐れがあります。

 

遊び方が分からなくても子どもと一緒に遊ぶ

冒頭の質問のように、最近の親は親自身が自然の中で遊ぶ経験が少なく、自然の中でどうやって遊んでいいかわからない、どんなことをさせると危険なのかわからない、などの声をききますが、まず、やってほしいことは大人が子どもと自然の中で遊ぶ、ということです。

子どもは親の喜ぶことをします。大人が気晴らしに河原や海辺のバーベキューに出かけても子どもたちは喜んで一緒に自然の中で遊んでいます。でも、おいしい自然の空気といつもとは異なる状況でバーベキューで焼いた食事を楽しんでいるだけで終わらせていないでしょうか。お子さんたちはどのように身体を動かしているでしょうか。火の周りでぐるぐるまわって遊んでいるだけでは遊んだとは言えないでのす。

子どもは自然の中で身体を思いっきり動かすこと、走ったり、斜面をかけ上ったり、川遊びでの水との触れあい、葉っぱに触ったり、虫とりをして生きものの不思議さを感じるためにも自然の中で遊ぶことが大事で、そうした体験が豊かな成長につながっていくのです。暗い空に満天の星空を見ることも、子どもの想像力を育みます。月の黒い部分に古来から人間はいろいろイメージ力をふくらませて「物語り」を生み出してきたのではないでしょうか。

ぜひ、お父さんお母さん自身が子どもと一緒に身体を動かし、また自然の中にあるものを遊具として活用しながら遊んでみてください。その時に、ただ鬼ごっこなど走りまわるだけでなく、斜面を駆け上る、身を隠して木を揺すって音を出すなど、多様な動作で運動能力を高めることに結びつくようにするといいと思います。
基本的な動きとしては、①身体のバランスをとる、②身体を移動する、③道具(用具)を操作する、④力試し、⑤①~④の組み合わせ、があります。例えば、河原では石を用いて水に投げる動作により上腕と肩胛骨の筋力を高めることにつながり、垂直に飛び上がり、木の枝に届くなどの競争も運動能力と意欲を高めることになります。川縁の大きな石を動かすことも良いですね。さらに海辺の砂で造形物をつくって遊ぶのも良いでしょう。その時に、幼児期に使っていた小さなシャベルを持参すると良いでしょう。

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遊びを通して、どういう木が朽ちていて危ないか、バーベキューの火の後始末の仕方、衛生管理も学ぶことができます。砂での造形遊びでは、しゃがむという動きは足腰を鍛えます。手の皮膚を通して感触を楽しみ、五感をも高めます。遊ぶことにより、五感を高め、危険察知能力を高めることにつながるのです。

子どもたちと共に、何もないところで「遊び」を考えることも大切です。そしてルールを決める、子どもと勝敗を競うことも意欲増進につながります。大人が楽しんで、童心にかえって遊ぶことが子どもに遊ぶことが楽しいという感情の高揚につながり、そのことが脳ホルモンの分泌を活発化させ、意欲や自律・自立心の育成につながっていきます。ぜひ、自然の中でお子さんと楽しんでください。

 

回答者:小澤紀美子

東京学芸大学名誉教授。専門は環境教育学。子どもたちの意欲や探究心を引き出しながら展開する「環境教育」を教育関係者に広めている。

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